System 本制度について
公益社団法人 日本麻酔科学会
周術期管理チーム委員会
委員長 齋藤 繁 |
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<周術期管理とチームアプローチ>
手術を代表とする侵襲的医療行為を受けることは患者さんやご家族にとっては人生の一大事です.手術等が必要と告げられた日から,計画された処置が無事に完了し元の平和な生活に復帰するまでの過程は決して分断的に切りとれるものではなく,様々な葛藤を経験しながらドラマのシーンのようにシームレスに時間が流れていきます.一方,医療機関での業務は医療の高度化に伴い,非常に分業的になりつつあります.医療スタッフがそれぞれ専門性の高い業務を真摯にそして先鋭的に実践すればするほど,継続性は希薄になり,患者さんの人生の決断に寄り添う医療とは乖離してしまう危険があります.そして,分業する担当者間の情報共有が十分でないと,不必要に類似作業が繰り返されたり,情報伝達ミスによるトラブルの発生を招きます.周術期管理という概念はこうした傾向を回避するためのもので,侵襲的医療行為の前後を含め一貫した医療を実践しようというものです.米国で提唱されているperioperative surgical home というシステムも経済効率をやや重視する観点ではあるものの同様の発想です.
また,昨今は急性期医療が集約化されてきたことで大学病院や各地域基幹病院での手術症例,麻酔症例は大きく増加しています.その上,侵襲的医療を受ける患者さんの高齢化や重症化が進み,周術期医療の安全確保にはこれまでにも増して細心の注意が求められています.周術期管理チームは,急性期医療に従事するスタッフ不足の中で,医師,看護師,薬剤師,臨床工学技士,歯科医師,理学療法士,栄養管理士,メディカルソーシャルワーカーなど多職種の人々がお互いの専門性を活かしながら情報共有して,チームとして患者さんを支援するシステムです.チームメンバーのそれぞれが綿密に連携を図りながら得意な領域を担当することにより,個別に同様の問診や処置を繰り返すことなく,専門性の高い医療を安全で合理的に実践することを目指しています.一般的に周術期管理の統括者としては麻酔科医師が適切であると言われています.これは,麻酔科医師が病院で実施される侵襲的医療行為に横断的に関わる立場にあり,術前診察,侵襲的医療行為中の全身管理,そして術後管理など一連の周術期診療を本務としているからです.
<日本麻酔科学会の周術期管理チーム事業>
こうした周術期管理体制整備への社会的需要に応えるべく,日本麻酔科学会は2005年に「麻酔科医マンパワー不足に対する日本麻酔科学会の提言」を発表し,2007年に「周術期管理チーム」構想を打ち出しました.そこでは,麻酔科医が関与する周術期の診療を効果的に実施できるように,多職種で構成される周術期管理チームの立ち上げを推奨しています.そして,質の担保された周術期管理チームメンバーを養成するために,2008年から毎年「周術期セミナー」を開催してきました.また,「周術期管理チームテキスト」の作成を通じて,周術期管理チームを構成するスタッフの学習目標を設定し,知識や理解のレベルアップを図ってきました.これら「周術期管理チーム」および麻酔科診療支援に特化した看護師育成については,日本手術看護学会と共に検討を進めています.2014年秋には,資格を有している看護師に第1回目の認定試験を実施しました.さらに,2016年からは薬剤師,2017年からは臨床工学技士の認定へと着実の周術期管理チームメンバーの養成を進めています.2017年4月現在,認定を受けた看護師は1248名,薬剤師は88名です.
日本麻酔科学会が認定する周術期管理チームメンバーは,周術期管理に関する専門知識を身につけた上で,現行の医師法,ならびに各医療職の業務内容を規定した法律の範囲内で活動し,医師の直接的指示の下に診療補助が成り立つことを前提としています.治療計画の立案と実践の責任を医師が負うことに変わりはありませんが,周術期管理チームスタッフが様々な側面から診療補助を行うことで,診療の安全性が高まります.そして,各職種の担当者が周術期管理チームスタッフとして患者さん目線のシームレスな医療を実践することは,単なる技術者の立場から脱皮し,患者さんの人生の支援者としての役割を担うことにつながります.この「周術期管理チーム制度」に参画することは,手術室等の侵襲的医療の現場にやり甲斐を感じているメディカルスタッフにとって,継続的に周術期医療を実践することへの大きなインセンティブになるでしょう.併せて,この制度をより確かなものにするためには,診療報酬制度の中で「チーム医療・周術期管理チーム加算〔案〕」が可能になることが大切な要素であることから,日本麻酔科学会ではその達成に向けた対応も進めています.
是非,侵襲的医療の現場で活動している多くの方々にこの「周術期管理チーム制度」を活用して頂き,安全で専門性の高い周術期医療の実践を通じて国民医療に貢献して頂きたいと希望します.
周術期における認定チームへの期待
日本手術看護学会 理事長 石橋まゆみ
医学の進歩、少子・超高齢化の進行の中で、患者の社会的・心理的な背景と生活への十分な配慮が求められています。そのような中、医療は非常に厳しい状況に直面し、医療スタッフ不足も現実的な課題となっています。併せて急性期および周術期医療の現場では、医師や看護師等の許容量を超えた医療が求められ、さらに周術期管理チームの医療連携が重要視されています。
周術期の定義は、日本手術看護学会の『手術看護業務基準』の中で、手術が行われる前の準備時期である術前、手術医療が提供される術中、手術終了後の回復期にあたる術後を含む期間を指すとしています。この期間において、手術室看護師は、術式・麻酔法を理解するとともに、患者の全身状態や心理状態などのアセスメントを行い、個々の患者に応じた看護を提供しています。その目的は、予定通りの手術を安全に実施するために必要な情報を周術期管理チームメンバーと共有することにあり、手術・麻酔侵襲を最小限に抑えるという患者にとってのアウトカムとなり、つまりチームメンバーが協働して専門的領域の役割を発揮した成果となります。
しかしながら、周術期の診療期間の短縮により、手術に必要かつ重要な事前情報が不足した中で、患者が手術前日を迎えるという現状があります。また、患者とその家族の不安な思いに寄り添う時間も十分とれないことが多くなっています。このようなことから、近年周術期外来を設置し、予定通りの手術を安全に安心して実施するために、術前の外来で患者・家族と面談し、手術に必要となる情報を基にリスクアセスメントを行う施設が多くなっています。得られた情報は、周術期管理チームメンバーが共有し、手術前計画や患者教育なども手術前準備として活用しています。また、術前外来を含む周術期管理情報は、質の高い専門的な知識・技術を持つチームメンバーによって有効かつ効率的に活用され、ケアがなされています。
日本麻酔科学会は、社会的背景にある医療環境の問題に対する取り組みとして、2007年に「周術期管理チーム」構想を掲げました。周術期管理チームは、麻酔科医師・手術室看護師・薬剤師・臨床工学技士の多職種で構成され、麻酔科医師が関与する周術期医療の診療を効率的に実施できるチームメンバーとなることを目的としています。まず、2014 年に周術期管理チーム看護師175名が誕生し、その後3年間で 1,248 名になりました。
周術期看護に関連する認定資格には、日本看護協会が認定する「手術看護認定看護師」、日本手術看護学会が認定する「手術看護実践指導看護師」、そして日本麻酔科学会が認定する「周術期管理チーム看護師」があります。それぞれの資格認定者の存在意義は、第一に患者さんにとって、次に病院経営にとって、さらに参画する学会にとって有益であり、周術期管理チームの役割を充実させていくことにあると考えます。周術期管理チーム看護師の皆さんに期待することは、手術室内にとどまらず、手術室以外の外来・病棟などの多部署においても、修得した専門的な知識や技術を日々の看護に反映させていただきたいと思います。そして、今後の周術期医療・周術期看護の充実と発展に向けて一層活躍されることを期待しています。
2017年8月
周術期管理チームにおける臨床工学技士の認定制度について
公益社団法人日本臨床工学技士会 理事長 本間 崇
日本臨床工学技士会が『周術期管理チームテキスト第 2 版・第 3 版』の作成に参加してから5 年が経過し、今年度いよいよ「周術期管理チーム臨床工学技士」の認定試験が開始されることになりました。今回の臨床工学技士の認定試験作成では東邦大学の落合先生、群馬大学の齋藤先生をはじめとした多くの日本麻酔科学会の先生方や日本手術看護学会の方々にご協力いただいたと伺っております。ここに改めて関係の皆様に御礼を申し上げます。
臨床工学技士が「周術期管理チーム」へ参加させていただいた最大の理由は、より高度で専門的になった周術期領域での医療機器に関して、医療機器の専門職の立場 から麻酔科医師の質的・量的不足を補うことです。さらに、臨床現場の過酷な労働条件の改善や国民へのより安全な周術期医療の提供に臨床工学技士が直接かかわることも目的としています。
こうした目的の達成には、臨床工学技士が周術期管理チームの「共通言語」を修得することが必要となるため「周術期管理チーム臨床工学技士」を養成することが不可欠となりました。
また、一昨年の診療報酬改訂では「24 時間臨床工学技士の院内配置」が特定集中治療室の加算要件となりました。こうした具体的なインセンティブを獲得することにより、周術期医療や集中治療領域における臨床工学技士の役割が大きくクローズアップされつつあります。
「周術期管理チーム認定試験」の受験者数はまだまだ少ない状況ではありますが、「周術期管理チーム」の目標の一つである診療報酬制度における「チーム医療・周術期管理チーム加算〔案〕」獲得が達成された折には社会的な認知度も更に大きくなり、周術期管理チーム臨床工学技士の参画が大きく拡大すると考えられます。
「チーム医療・周術期管理チーム加算〔案〕」が一日でも早く実現がきるように、日本臨床工学技士会としても「周術期管理チーム臨床工学技士」養成の支援体制を取り、周術期の現場に少しでも多くの「周術期管理チーム臨床工学技士」が配置できるよう、組織として協力してまいります。今後この「周術期管理チーム認定制度」が益々発展することを祈念申し上げ、ご挨拶の言葉といたします。
2017年8月